公開日:2008-08-12
更新日:2012-12-14
この話は、九代目阿礼乙女である稗田 阿求が、博麗神社の巫女、博麗 霊夢の証言を元に著述したものである。
時は第百十九季の白露の頃。降り注ぐ陽光は眩きばかりで、紺碧の空に真白い入道雲が遠く見える。朝方聞こえた蝉の音は気温の上昇と共に鳴り止み、ひとときの静寂が博麗神社を包んでいた。
「あ゛~……もうすぐ彼岸だってのに、何でこんなに暑いのかしら……」
日課の掃除を終えた霊夢はいつもの縁側に腰掛け、いつも通りに茶をすすりながら、あまりの暑さにだれていた。朝夕の気配は徐々に涼みを帯び始めているが、まだ日のあるうちは酷暑である。
「去年はアイツが異変を起こしてくれたおかげで、涼しかったのよねぇ……」
あの時は「やっぱり夏は暑くなきゃ」と言っていたような――と指摘する声はない。今日の神社は朝から霊夢一人であった。いつも鬼やら妖怪やら魔法使いやらが居座っているものだから、少し珍しい日である。
まあ、たまにはそんな日があっても良い。
生来の楽天家である霊夢はそう思いながら、淹れたての熱いお茶――どんなに暑い時でも、お茶は熱くなくてはならないらしい――を手元に幻想郷の空を眺めていた。
俗に「紅霧異変」と呼ばれる異変を解決してから一年と少し、「春雪異変」からは四ヶ月が経った。初夏の宴会騒ぎは先々月の話だったか。こうしてみると、スペルカード・ルールが広まって以来、異変の回数は確実に増えているようだ。異変規模でなくとも、昼時には妖精が、日没後は妖怪達がそこかしこで弾遊びに興じている。
それだけなら大いに結構だ。だが、彼女らにとって神社は試合会場のひとつと思われているらしく、このところどこからともなくやってきては騒ぎ始めるようになった。それも昼夜を問わず。あまりにうるさい時は追っ払うが、どうやらそれすらもイベントの一つであるようで、まったく癪に障る。一度徹底的に懲らしめる必要があるだろう。妖精や下級妖怪達に、果たして鉄拳制裁がどこまで有効なのかは疑問だが。
そんなことを考えていると、ふとあることに気付いた。
「……そういえば、昨日も誰も来なかったわね」
どうりで今朝は目覚めが良かったわけだ。朝の涼しい内に掃除を終えて、昼餉のあとは満足しながらお茶にしていたのだ。
思い起こしてみれば、最後の来訪者はおとといの夕方、魔理沙が羊羹を持って遊びに来たとき以来か。なんでも新しい魔法がやっと完成した――紅魔館の魔女の魔法にヒントを得たとか――ので、早く試し撃ちしたいとウズウズしていた覚えがある。一日二日誰も来ない日があっても気に留めるほどのことではないが、何故か霊夢は妙な胸騒ぎがした。
「こういう時の勘って、あたるのよねぇ」
そう言って、ずず……と茶をすすりながら再度幻想郷の方へ視線を戻す。すると、山とは反対の方向――通称「無名の丘」の方へ、かすかに妖気が集まっていることに気がついた。
やっぱり……と思いつつ、霊夢はどうしたものかといささか逡巡する。
妖気が集まること自体は、それほど珍しいことではない。幻想郷には妖怪が過剰なほど棲みついているので、しばしば彼女らが接触して弾幕ごっこを始めることは先述の通りである。妖怪同士のお遊びであれば、人間に危害が及ばない限り霊夢が干渉することではない。実際、今日がいつも通りの一日であれば、まだ何も思う事はなかっただろう。それほどまでに弾幕ごっこは、幻想郷で日常的な遊びとなったのである。
ただ、妖気の出所が無名の丘というのが少し引っかかった。あそこは人間も妖怪もあまり近寄らない、忘れられた場所だ。静かで涼しい場所だが、その丘の歴史を知っている者は、自然と足が遠退いてしまう。逆に言えば、人知れず何かをするには都合の良い場所でもある。それに、この気配は――
「紫……よねぇ…………」
八雲 紫。あらゆる物の境界を操り、幻想郷でその名を知らぬ者は居ないすらと言える程の大妖怪である。つい先日も冥界で騒ぎを起こし、結局、その時壊された(?)冥界の境界は今なお修復されていない(本人曰く、境界を壊したのは自分ではなく霊夢よ、とのこと) 何れにしても、こんな時間に妖気を出して幻想郷を闊歩するというのは考えにくい事態である。何かを企んでいない限りは。
「ま、散歩だと思えばいっか」
霊夢はそういいながら――他にやることもないので――いそいそと奥に納められた陰陽玉を取り出し、出掛ける準備を始めるのであった。
ふっと力を抜くと、霊夢の身体はふわりと宙に浮いた。
彼女の能力は重力を無視することである。彼女は何事にも縛られることはない。万物に等しく降りかかる重力であっても、例外ではないのだ。慣性をも無視するため精密な動きを得意とするが、その代わり、魔理沙のように速くは飛べないらしい。彼女は魔力を使って飛ぶ。方法が根本的に異なるのだ。
時刻は八つ時を廻ったところで、そろそろ日が傾き始めている。先ほどまで静かだった幻想郷も、ツクツクボウシやアブラゼミらが活動を再開し、賑やかさを取り戻していた。
そこら辺を飛んでいた妖精を相手にしながら鎮守の森を抜けると、広大な幻草原が眼下に広がる。目指す無名の丘は正面の小高い山の中腹にある。
この頃になると、霊夢の勘は徐々に確信に変わりつつあった。
「妖精たちが騒がしい……よっぽど大げさなことをしてるのね」
妖精は自然現象そのものの正体である。その儚さゆえ力は一様に弱く、普段は気まぐれで悪戯を仕掛けてくる程度だが、例外がある。それは強力な妖怪が妖気を発している時、自然が著しく歪められている時である。異変規模ともなると、問答無用で攻撃してくることも多い。
「もうすぐ日暮れだってのに、暑いったらありゃしない」
思わずそう漏らすほど、妖精たちの攻撃は苛烈だった。今まで数多くの妖怪を退治してきた霊夢にとっても、ここまで激しい攻撃はあまり覚えがなかった。本当に異変規模といっていい。
「あぁん! もうッ!」
夢符『封魔陣』!!
スペルカードを取り出し符名を叫ぶ。そして祓串を一閃。
刹那、ザッという空気を引き裂くような音がしたかと思うと、霊気の衝撃波が周囲に拡散。辺りにいた妖精を弾幕ごと粉砕した。だが……
「おっと、危ない」
攻撃が止んだのは一瞬だけであり、再びどこからともなく現れた妖精や幽霊が容赦ない弾幕を霊夢に浴びせる。
「まったく紫の奴、何企んでるのよ!?」
『さて、なんでしょうね?』
返事は近いところから返ってきた。前方の空間に一本のヒビが入り、やがてぬっと上下に開く。生まれた虚空には、数多くの眼と手が蠢いていた。招くわけでも、追い払うわけでもない、ただブラブラと左右に振れる手。何の感情も感じられない、無機的な視線。そこから姿を現したのは、九尾狐の藍だった。
「式の方に用はないんだけど」
突き放すように言う霊夢に、藍はククッと笑う「でも、私には用があるからね」
「足止め?」
「少し計画にズレが出たみたいだから、時間を稼いで来いとね」
それを聞いた霊夢は僅かに口を歪ませる。
「なるほど。じゃ、あんたをとっとと倒せばその計画とやらは潰せるわけね」
先に動いたのは霊夢だった。
今の藍を、白玉楼の時と同じと考えないほうがいい。あの時、主である紫は眠りの最中であり、藍は独断専行で動いていた。それは、式として致命的なほど弱体化した状態である。だが今は、はっきりと紫の命によってここに現れた。式は、主の指揮の下で、はじめて真価を発揮することが出来る。言い換えれば、今こそが最強の妖獣『八雲 藍』なのである。
彼女は時間稼ぎといった。つまり、撃退までは考えていない。いや、撃退してしまっては意味がないのだろう。紫ほどの妖怪となれば、自分の妖気を外へ漏らさない術を持っている。にもかかわらず、わざわざ神社の方へ妖気を飛ばしてきたのだから、霊夢がここに来ること自体は『計画』の範疇の筈。であれば、「足止め」を必要としている今こそ好機。
袖から新らたなスペルカードを取り出す。本来なら後のために取っておくべきだろうが、今は時間が優先される。
霊符『夢想封印 集』!!
霊夢の言葉に応え、陰陽玉は次々と光弾を生み出した。それは一瞬ふわりと漂った後、藍にめがけてまっすぐ襲いかかる。と同時にありったけの霊札を取り出し――
だが、まさに光球が藍を飲み込もうとした瞬間、藍の身体は虚空へかき消えた。
式輝「プリンセス天狐 -Illusion-」
藍が宣した符名に、霊夢は思わず舌打ちする。藍の周囲がぐにゃりと歪み、陽炎のようにたち消えた。直後、霊夢は唐突に進行方向を直角に変える。間髪を入れず、本来霊夢が進んでいた先に藍が現れた。
「相変わらず、良い勘をしているね」
そう言い残すと大量の弾を撒いて再び藍は虚空へかき消える。また霊夢は突然向きを変え、その先に藍が出現した。しばらく同じやりとりが繰り返されるが、藍は切り返すたび、徐々に攻撃の間を狭めてくる。霊夢も時折霊札で牽制をとるが、当たる気配は全くない。何を考えて名付けたのか人間には理解し難い術だが、神出鬼没の様は確かに幻影のようにも映る。
「そろそろ疲れきてきたかしら」
藍の声には余裕の色が混じる。既に攻撃の間隔は数秒の単位を切りつつあり、むしろそれについてこれる霊夢の反応速度が異常だと言っていい。
「……ったく」
霊夢は周囲を軽く一瞥して、ため息混じりにぼやいた。周囲には藍の放った光弾の燃えかすが散乱し、飽和してあちらこちらで明滅している。息をのむほど幻想的ではあるが、触れれば重度の火傷は免れない。
霊夢はもう一度、周囲を見回す。もう「次」の逃げ道は残されていない。そのことを確認して、手にしていた霊札を再び握りなおした。
「ワープは、私の――」
実は霊夢は、先ほどからある一点だけを見据えていた。自分の勘が正しければ、次はあそこが……!
「――専売特許よッ!!」
叫び声とともに、もてるだけの霊札が虚空に放たれる。霊札は徐々にスピードを増しながら、そして――
『あだだだだーッ!?』
鋭い悲鳴が、蒼穹の空にこだました。
丘のちょうど頂上部に、八雲 紫の姿はあった。一面の鈴蘭畑は、晩春の頃であれば鈴型の白花が見渡す限り咲き乱れるが、この時期はただ蒼い草原が広がるのみである。
「あら、随分苦戦したようね」
開口一発、紫はそういって霊夢を出迎えた。既に夕日は後方へ大きく傾き、空はゆっくりと赤みを帯び始めている。
「どこぞのワンパターンな式のおかげで時間を取られたわ」
「でも、思ったより早かったわ。腕はなまっていないようね」
「弾を撃つのに腕力は関係ないわ。勘よ勘」
「ふふ、相変らずね」
紫は派手な衣装に負けないくらい派手な傘をパッと畳んだ。その表情にはいつものように、感情の読めない笑みが浮かんでいる。感情がないわけではなく、喜怒哀楽の区別がつかない笑いなのだ。この妖怪に対して、区別という言葉は全く無意味である。
「……で、あんたはいったい何をしているの?」
「さ・が・し・も・の♥」
霊夢のこめかみに青筋が浮かぶ。
「ほぉ~ぉ。で、その探し物は何かしら?」
「もちろん、見つけ難いものですわ」
「それにしては随分大がかりね」
「変化が僅かなものであればあるほど、それを見つけるためには膨大なエネルギーが必要なのよ」
「境界をいじれるあんたが言っても説得力がないわ」
「神社のおめでたい巫女に説得力なんてあるのかしら」
「うるさいわね。第一、今は寝てる時間じゃなかったの?」
「そうね……」
紫は畳んだ日傘を、また開く。と同時に、辺りの気が一段と重みを増した。いつの間にか虫の音は絶え、耳をつんざくような静寂が支配する。夕焼けの赤も、宵闇の黒も曖昧となり、ただ、目の前のむらさきだけが圧倒的な存在感を放つ。
霊夢も御札を取り出し、臨戦態勢に入った。できれば戦いたくない相手だが、何を企んでいるにしろ、見過ごすわけにはいかない。
「月光浴の出来ない幻想郷には、そろそろ飽きたの」
「生憎今夜は新月よ。次の満月の夜まで寝ている事ね。どこかの吸血鬼みたいに」
「やっぱり、気付いていないようね」
「そろそろ冬眠の時期だって?」
「あの月は危険すぎる……、すこし頭を冷やしなさい!」
その時だった。突然、何かが破裂するような音が響き渡った。ちょうど、スペルが破かれたときの音と似ている。紫の攻撃かと思ったが、それらしい動きはまだ見せていない。
「あ゛ーダメだーっ!!」
そういいながら紫の後ろに倒れこんだのは、失われた鬼である伊吹 萃香だった。
「……あれ? 萃香、あんたもいたの?」
霊夢の言葉は、萃香に届かなかったようだ。「これじゃ、どんだけ萃めても無駄無駄」などと小声で独りごちている。
「あなたの能力と私の能力を合わせても駄目なのね……」
「たぶん、時間か空間かどっちかに干渉されているんだろうね。萃めるためにも散らすためにも、時空は必ずかかわるものだから。境界をいじくんのも同じでしょ?」
「ええ。時空に干渉できる人物といえば、心当たりが一人いるけど」
萃香は腕を頭の後ろに回しながら、うーんと唸る。
「少し違うかな。単に時間をとめるんじゃなくて、変化そのものを拒否する……つまり『永遠』を創るようなもの。だから『変化』をもたらす私らの能力が効かないってわけ」
「あら。ということは、御親戚かしら」
「そうかも知れないし、そうでないかも知れない」
「……ちょっとあんたたち。いったい何の話をしてるのよ?」
二人は霊夢を完全に無視していた。他人に対してあまり話を聞いているとは思えない霊夢だが、無視されるのは矢張り癪に障るようだ。
「異変に気付いたのは?」
「去年のもう少し後……そうね、十三夜の時からかしら」
「なるほど。十二個全部を入れ替えようってわけね。……ま、どのみちこれじゃ、向こうさんが動き出さない限り手のうちようがないけどさ」
「あーぁ、また私が動かなきゃならないのね……。まったく疲れるわぁ……」
「私はパス。あんまり楽しそうじゃないし」
いい加減夢想封印でも打ち込もうかと本気で考え始めた時、ようやく紫がこちらへ振り返った。
「残念だけど、あなたの出番はなかったわ。今日はここでお開き。……まったく、この調子だといつもの黒い娘や吸血鬼も出張ってきそうね。面倒くさいわぁ~」
「だから、一体なんの話よ? 異変ってまさかあんた……」
「私は何もしてないわよ。この一年間ずーっと。でも、”次”は少し忙しくなりそうね」
紫は愚痴るだけ愚痴った後、いつの間にか畳んでいた傘を優雅な仕草で何もない虚空へ一閃薙いだ。ピキッと高い音がしたかと思うと、次元が裂かれて狭間の世界が露出する。
「じゃあ、お言葉に甘えて寝かせて貰うわ。その時が来たらまた会いましょうね~」
これもまた流麗な動作でその切れ目に入り込んだ紫は、そう言い残してあっという間に掻き消えてしまった。それに合わせるかのように、ヒグラシの鳴き声がどこか悲しげに響き渡る。
「ちょ、ちょっとぉ~……」
情けない声を出しながら萃香の方を見ると、彼女は西に沈みかけた日をぼんやりと眺めていた。いや、今にして思えば、あれは日を見ていたのではなく、その近くにある筈であろう朔の月を見ていたのかも知れない。
「ま、そう遠くないうちに解るよ」
ふと我に返った萃香はそれだけ言い残して、白い妖霧となって空中に散っていった。あれほど立ち込めていた妖気も完全に消え去り、丘は、まるで最初からそうであったと主張するかのように、いつもの光景を霊夢の目に焼き付けていた。通り抜ける夕風は昼時の酷暑を忘れさせるほど涼やかで、秋が間近に迫っていることを感じさせる。
「……なんなのよ、まったく…………」
ひとり丘に取り残された霊夢のぼやきを、聞き入れるものは誰も居なかった。ショウロウトンボだけが、頭上をこともなげに飛び交うのみである。
――とはいえ、その日は釈然としない思いを抱いていた霊夢だが、次の日にはすっかり忘れていつも通りになっていた。日常は何も変わらない。そのうちもっと面倒な事が起こるかも知れないが、あの二人が手を焼くような異変だとすればそれはそれで面白いと思ったからである。
結局、霊夢がこの日ことを思い出すのは、次の満月の夜、いつもとほんの少しの違和感とともに、紫が霊夢の元を訪ねてくるまで待たなければならなかった。偽りの月を沈めぬ、永夜の夜の幕開けまで。
本稿は、永夜異変の少し前に起こった出来事について、博麗 霊夢から聴いた話をそのまま書き起こしたものである。細かい点については私の想像も入り混じっているが、概ね証言通りに執筆した。
夜明の刻が過ぎても夜が明けなかった異変――通称「永夜異変」は、今なおよく判らない事が多い異変である。解決には少なくとも博麗 霊夢と八雲 紫、霧雨 魔理沙とアリス・マーガトロイド、十六夜 咲夜とレミリア・スカーレット、西行寺 幽々子と魂魄 妖夢の8名が関わったらしいということは判っている。というより、それ以外の事は何も判らないといった方が正確だろう。
この話を見るに、どうやら永夜異変は月の異変と関係があるらしい。霊夢は偽物の月がどうとかと言うが、その辺りの証言はどうにも曖昧で、その全貌は謎のままである。
永遠を操ると言えば、迷いの竹林の奥にある永遠亭の主、蓬莱山 輝夜の能力である。永夜異変には彼女も何か関わっているのだろうか。そう言えば、永遠亭の存在が明らかとなり、彼女らが里に姿を現す様になったのもこの頃からだったように思うが……。
九代目阿礼乙女 稗田 阿求
どうも、久樹 輝幸です。
今回は永夜抄の前夜祭というべきでしょうか。そんなエピソードを妄想(香霖基準で言う空想?)してみました。
東方において、月は地上の魔力の源です。その月に干渉しようと言うのですから、きっとなにがしらの準備をしたことでしょう。
準備するという事は、物事が動き始めるという事です。永遠亭は輝夜の能力で永遠――つまり「変化」を否定した空間の中にありましたが、それでは準備を始める事も叶いません。つまり、一時的とは言え永遠の空間を解除する必要がありました。
萃夢想のパチェが月の異変に気付いている事から、恐らく入れ替えられる満月は太陽がめぐる12個全てに対して行われたのではないかというのが私の予想です。妖怪的には、12ヶ月でようやく1日みたいなものらしいので(60年でようやく1年なのだとか)
紫にとっても、妖怪の力の源である月に干渉されるとなると傍観するわけにもいきません。月面戦争の記憶もありますし、普段里に姿を見せない山の妖怪たちまで騒ぎ出すかも知れない。
そこで月に干渉している犯人を捜そうとしますが、どういうわけか幻想郷のどこを捜しても術を使った痕跡のような気配が薄く漂っているだけです。輝夜は須臾を操る能力も持っていますから、きっと準備は毎月満月の夜に恐ろしく短い時間で行われたのでしょう。
自力での捜査を断念した紫は萃香に依頼し、疎密を操る能力で術者の出所を探ろうとしました。結果は本編の通り。操るというのは変化をもたらすことなので、変化が拒絶される『永遠』の中では無意味となります。ですから、相手が『変化』を起こしている最中に時刻を止めて捜し出さないことには、どうしようもないという結論に至ったわけです。
尤も、求聞史記は紫の検閲を受けているため、実はあっきゅんも真実を知っているが敢えて隠蔽している……という説も考えられます。ただ、同じ事件の調査担当で、真実を記事にする信念を持つ文にも原因がよく解らないらしいので、霊夢たちは本気で無かったことにしようとしているのではないかと私は思っています。